カテゴリー: 貴金属について

2021.02.02

難しいフルエタニティリングの修理/

こんにちは!
今日はとても難しいフルエタニティリングのサイズ直しをご紹介したいと思います。

いつも思うのは「修理は作りを熟知していないとできない」という事です。
今回もとても難しいお修理で、例えば、私がこの修理の流れを知ったからと言って
出来るわけではありません。
職人さんが長年培われた技術と勘に感謝しながら、紹介していきたいと思います。


お預かりしたのは、この指輪。
某有名ブランドのフルエタニティリングです。
「フルエタニティリング」とは、一周ぐるりと石が留まっている指輪の事。
ご購入されたブランドでは「サイズ直しが出来ない」とお断りされたそうです。

2回ほどしか使っていないのに、サイズが合わなくなってしまったとお困りのご様子。
どうしても使いたいとのご要望でしたので、お受けすることにしました。



ぎっしりと石が留まっていますね。
側面も、つるんとした平坦な形ではなく凹凸があります。
石の裏側も、綺麗な四角に成形されていました。

素材はホワイトゴールドにダイヤモンドです。
サイズを2号大きくします。
サイズ直しの流れとしてはいつもと変わりません。

・糸のこを入れる箇所のダイヤモンドを外して
・糸のこで切って、地金を挟んでろう付けして
・形を整えた後に、ダイヤを留め直す

この工程全てに、今回は細心の注意を払います。


まずは、すり板の形をこのように削りました。
今回の修理用のすり板です。
石を外すにしても、糸のこで切るにしても、出来るだけブレを減らさないといけないのです。
切り口がぶれたり、石外しの時に指輪が動いたりすると後の作業に大きな負担がかかってきます。


こんな感じで配置します。


石を3粒ずつ外しました。
なぜ3粒外したかは、後からの工程で分かります。


糸のこで、空いた石座のど真ん中を切断しました。
見てるだけで恐ろしいです(笑)。


次に、切り離した指輪のサイズを、少しずつ広げていきます。
全体をゴム槌で軽く軽く叩きます。
急に広げると、石が割れたり指輪にひびが入ったりします。
ゆっくりゆっくり叩いていきます。


無事に、欲しいサイズまで広げられました。


このように地金を挟み


ろう付けをしました。


ロウがしっかりまわっているのが見えると思います。

ろう付けとは、ご存知の通り火をあてる事です。
もちろんダイヤモンドを痛めるリスクがあるので、石を最初から多めに外しました。
火がもろにあたる石は、出来るだけ減らさなければならないからです。

それでもリスクゼロという訳にはいきません。
出来るだけ早く火を通して、ロウが溶けた瞬時に火を指輪から離す。
この時に、指輪の切り口がガタガタだと、ろう付けもスムーズにはいきません。
今回は、全ての行程を手早く綺麗にしないといけないのです。


指輪に挟んだ地金を、ヤスリで成形していきます。


様々なヤスリで、形を整えて・・・


綺麗に指輪に馴染んでくれました。


次に石座を作っていきます。
今回は、ダイヤモンド2個分広がったので、アタリの穴を空けます。


ここからは、細かい作業になるので、顕微鏡の出番です。


アタリで付けた穴を大きく広げて・・・


溝を作って、周りの彫り留めと同じ石座を成形します。


裏側も、周りと同じような四角に成形します。
本当に顕微鏡さまさまですね(笑)。


石が留まりました。


指にはめてみました。
まだメッキをしていないので、地金の色が分かれていますね。
最後に仕上げ磨きをします。


メッキをかけて完成です!


指輪の中で一箇所だけ横長な六角形ができましたが、それ以外は見ても分からないと思います。

お客様には大変喜んでいただき、私達もほっとしました。

ブランドにもよると思うのですが
ブランド品は、元のブランド以外の業者で手を入れた場合
そのブランドとして買い取ってもらえなくなったり
元のブランドが修理してくれなくなったりする事があります。
ブランド品の修理をお考えの方は、その旨をご了承の上頼まれた方が良いと思います。

一番良いのは、販売したブランドが責任を持って、メンテナンスをする事だと思うのですが。
大きなブランドになると、そこまで手が回らないのでしょうか。

これからも、お客様が困った時の受け皿のようなブランドでありたいと思います。

2018.09.02

オーダーメイドの里帰り

こんにちは。
随分以前にお作りした「カラーストーンのピンキーリング」「アクアマリンのリング」との二つが
お客様の手元から戻って来ました。
「少し汚れて来たので、リフレッシュ加工をしてほしい」との事です。


これが戻りたての指輪達。確かに、少し小キズが目立ちますね。


拡大してみると、石の裏にも汚れが付着しているのが見えます。

とはいえ、この二つの指輪。6〜7年も前にお作りしたものです。
その割には、状態がとても美しい・・・!
多少の小キズというものは、使っているとどうしてもついてしまうものですし
6〜7年お使いいただいている割には、石の裏も綺麗です。
きっと、大切に扱ってくださっていたのでしょうね。
作品が、全て「自分の子供」だと感じている私としては(笑)、本当にありがたい限りです。
新品のように、美しくしたいと思います!

まずは、洗って取れる汚れを全て取り除きます。
これは「超音波洗浄機」と呼ばれるもので、水を細かく振動させて付着した汚れを取り除くものです。
ここに、皮脂やその他の油分などを洗い流す特殊な洗剤を入れて使います。
うっかり自分の指をこの中に長く付けていると、ガサガサになります(笑)。


洗った後の石達です。
裏側の汚れが綺麗に取れて、輝きが増しました。


ただ、当たり前ですが小キズはまだ取れていません。
これからこの傷を磨いて取り除いていきます。

・・・・と思った矢先に問題が勃発。
職人が「カラーストーンのピンキーリング」を細かく点検している時に「ペリドットの石座の爪が浮いている」事に気付きました。

写真で分かるでしょうか?こんな感じで爪が石から浮いてしまっています。
ほっておくと石取れや爪が折れる原因にもなりますので、リフレッシュ加工の前に修理しておくことにします。

この灰色の固まりは「ヒートフォーム」と呼ばれるものです。
熱湯につけると柔らかくなる樹脂で、冷えると固まります。
柔らかい間に指輪を埋め込んで固定します。

こんな風にして、もう一度浮いてしまった爪を倒していきます。
小さいといえどもカナヅチで打ち直すとなると、力を入れ過ぎればペリドットは割れてしまいます。
このカナヅチの衝撃を少し弱めてくれるのも、ヒートフォームの大事な役割です。

アップで見るとこんな感じ。
本当に細かい作業です・・・。

爪が無事に倒せたので、ここから磨きに入っていきます。

高速回転しているバフに研磨剤を塗りつけて、そこに指輪を押し当てて小キズを取っていきます。
この時、石にはバフが当たらないように極力注意します。
そうしないと石のカット面まで削れてしまい、輝きが鈍くなってしまいます。


近くで見るとこんな感じ。
2本とも、丁寧にバフをあてていきます。

これがバフがけ直後の指輪達です。
全体的に黒ずんでいるでしょう?
磨いたバフの粉が付着している為です。

指輪の周りの水に、もやもやとした黒い湯気のようなものが見えないでしょうか?
これが、バフの粉です。
これを綺麗に洗って・・・。


これでリフレッシュ加工は終了です。
二つとも、とても綺麗になりました。

浮いていたペリドットの爪も、無事に押さえられました。

全体についていた小キズも取れています。

このコラムでも何度も書かせていただきましたが
ジュエリーという物は、大切に扱っていれば本当に長い間使っていただけます。
そして、石の裏にはどうしても皮脂が溜まりやすく
それを取り除くだけでもびっくりするくらい綺麗になります。
「最近この指輪、色あせてきたな」
「知らない間に傷だらけになってきたな」
など感じられた方は、ぜひ一度お買い求めになられたお店にご相談下さい。

最近のお店の中には「新品と取り返させていただきます」と提案してくるお店もあるようです。
新品と取り替えるのは、効率的には良いのかもしれませんが・・・。
「誉ノ錺(ほまれノかざり)」としては、それはもったいないように思います。

服を丁寧に繕い直して、長く着るように
割れたお茶碗に「金継ぎ」をして、もう一度使うように

ジュエリーも、末長くお客様の元で可愛がっていただきたいと思います。
「誉ノ錺(ほまれノかざり)」では、他のお店の商品達のリフレッシュ加工も承っております。
どうぞ、ジュエリーで何かお困りの事があれば、お気軽にお問い合わせくださいね。

2016.09.15

ピンクゴールド

こんにちは。
今日は「ピンクゴールド」について、お話をしたいと思います。

最近はすっかりジュエリー業界で定着しつつある「ピンクゴールド」。
その淡いピンクがかった金は、女性からとても人気がありますね。
巷で聞かれる「ローズゴールド」なども、「ピンクゴールド」の別名です。

そもそも、なぜ「ピンク色」なのか?
ピンクゴールドの色の正体は「銅」です。
金に銅の成分をたくさん混ぜると、あの淡いピンク色が出来上がります。
含まれる割合などは、企業によって違いますが、銅が主成分なのは、どの企業も変わりません。
割合が違うため、ブランドによって色が少しづつ違う場合があるのも「ピンクゴールド」ならではです。

私もピンクゴールドは大好きなのですが。
ピンクゴールドは、イエローゴールドよりも変色しやすいという弱点があります。
想像してください。
10円玉や、銅製のお鍋。
放っておくと茶色くなりますよね?
実はピンクゴールドにも、それと同じ現象が起こります。

誉ノ錺で販売しているピンクゴールドの指輪
誉ノ錺で販売しているピンクゴールドの指輪

 

よくお客様から「指輪を大切に保存していたら、変色してしまった」
とのお問い合わせがあります。
これは特に「ピンクゴールド」に起こりやすい現象です。
ピンクゴールドは、毎日身につけて洗ったり、少しタオルで拭いたりするだけで
表面の酸化膜が取れてくれます。

でも箱に入れて、大事に保管していた場合。
酸化膜が取れることがないので、どんどん濃い色に変わっていってしまうのです。
これが「ピンクゴールドは使っている方が美しさを保てる」と言われている由来です。

そして、10金や18金のピンクゴールドではなく
「ピンクゴールドメッキ」や「ピンクゴールドコーティング」と言われている商品達。
これらは残念ながら、変色すると直すことはほぼ無理になります。
きつく磨くと、中の地金が出てしまうし。
優しく拭いていても、あまり綺麗にはなってくれません。

誉ノ錺でピンクゴールドを使っているネックレス
誉ノ錺でピンクゴールドを使っているネックレス

ここでリフレッシュ加工の方法ですが、ジュエリーに石が付いているものは十分注意してください。
巷には「ジュエリー磨きの布」や「ジュエリーをつけると綺麗になる液体」など
様々な商品が販売されています。

でも、これらの大半は「金属を磨く(うすーーく汚れた表面を剥がす)」ものであって
「石を磨く」ものではありません。
ダイヤモンドやサファイアなど、硬度(石の硬さ)の高いものならさほど問題はないのですが
アメジストやガーネット、ペリドット、サンゴなどは
石の表面に細かい傷がついて曇ってしまうかもしれません。
特に真珠は、液体につけるのは控えてくださいね。

メッキや、コーティングでないピンクゴールドは、少し高額かもしれません。
でも、大切にメンテナンスをしていけば、末長く楽しませてくれるものだと思います。

ジュエリーなどの扱いで分からないことがあれば
どうぞ「誉ノ錺(ほまれノかざり)」までお問い合わせください。

2016.08.12

真鍮のアクセサリーについて

こんばんは。今日は少し真鍮のアクセサリーについて書いてみようと思います。

少し前は、真鍮に金やロジウムをメッキした商品が主流でした。
「ゴールドフィルド」と呼ばれている素材も、中身は真鍮が多く使われています。
でも、最近真鍮を、素材そのままでネックレスや指輪に加工している商品をみかけます。

アレルギーを持っていない皮膚の方には、何も問題ないかもしれません。
でも、丈夫な皮膚でも、真鍮のアクセサリーをしたまま汗をかいたあと
皮膚がかゆくなったり赤くなる事もあります。
元々真鍮という素材は、決して肌に優しい素材ではありません。
そして、それは「メッキ」をしていても「ゴールドフィルド」でも同じです。


たまに「ゴールドフィルドはメッキに比べて、コーティングの厚みが分厚い。だからアレルギーは起こらない。K18などの商品と同じくらい安全だ」
という文章を見かけますが、残念ながらそんなことはありません。
貴金属とゴールドフィルドは、まったく違う素材です。


どちらが良い悪いと言う事ではないと思います。
私自身も、真鍮にメッキを施した素材のコスチュームジュエリーなどは大好きです。
でも、肌は弱いので夏場はすぐに外すようにしています。

人によっては 「首は大丈夫。でも、指はアレルギーが起こった」
という方もいらっしゃいます。
それぐらい金属アレルギーは、人それぞれの反応が出るし、恐いものだと思います。

もし、真鍮の商品の購入を考えていらっしゃるお客様は、分からない事があれば、制作者に詳しく聞いてみる事をお勧めします。

どんなに素敵なデザインでも、安全でなければ、いつかは使われなくなってしまいます。
いろいろな商品が手軽に作れて、そして売れるようになっている今だから「誉ノ錺(ほまれノかざり)」は、丁寧なもの作りを続けていきたいと思います。